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建築

今の美術館が蓄積された場所―青森

美術館の変遷/ ACAC /十和田/弘前/県美/八戸/美術館の蓄積

八戸市美術館館長(建築家、日本大学理工学部建築学科教授) 佐藤慎也

創作する場としてのアートセンター
青森公立大学国際芸術センター青森

かつての美術館は、市民にとって美術作品を鑑賞または発表するための場でした。しかし、1970年代に教育普及という視点から、ワークショップと呼ばれる市民に向けた創作活動が導入されるようになり、今では多くの美術館にワークショップのための諸室がつくられるようになりました。一方のアーティストに対しても、創作活動を行う場の提供という視点から、アーティスト・イン・レジデンス(以下、AIR)という滞在制作プログラムが普及していきます。それは、作品が場所に呼応して制作されるようになったこととも関連して、アーティストがある地域に赴き、その場から作品を構想していくことに加えて、その地域の市民と交流することを意図したものです。
2001年に開館した「国際芸術センター青森(以下、ACAC)」は、このAIRを軸としたアートセンターです。実は、AIRを目的に新築された建築物、特に宿泊施設をもつものは、それほど多くつくられていません。ほとんどが別の目的でつくられた建築物の改修であったり、宿泊は施設外にある既存の住宅などが用いられています。しかし、この「ACAC」は、はじめからAIRのために計画された数少ない建築物のひとつです。

展示棟外観

7社による公開指名コンペによって選ばれた設計者の安藤忠雄は、これまでに数多くの美術館を手がけてきました。「直島コンテンポラリーアートミュージアム(現ベネッセハウスミュージアム)」(1992)をはじめ、「兵庫県立美術館」(2002)、「秋田県立美術館」(2013)など国内の美術館だけでなく、「フォートワース現代美術館」(2002)などの海外の美術館も多く手がけています。安藤が設計する建築物の特徴は、地形を読み込んで配置されるコンクリート打放しによる単純な幾何学的造形と、その内部空間に導かれる自然の光にあります。「ACAC」においても、直線状の創作棟と宿泊棟が谷に架け渡され、展示棟は同心円による曲面の壁をもっています。そして、展示、創作、宿泊という異なる機能に対して異なる棟が当てられ、その間に外部を挟むことにより、安藤の意図する自然との共生を実現しています。このことは同時に、観客に公開する展示のための場と、アーティストによる創作・宿泊というプライベートな活動のための場を明確に分離する働きをもっています。

谷に架け渡されている創作棟
創作棟内部

一方で、展示空間に注目すると、安藤が設計する美術館の展示室は、多くが長方形の平面形状にフローリングの床と白い壁をもつホワイトキューブです。作品保存を優先する美術館では、安藤が得意とする自然光の導入は敬遠され、展示空間に動線が貫入する手法が見られるくらいで、展示室に安藤らしさがあらわれることは多くありません。しかし、「ACAC」では、その場において作品を制作するAIRというプログラムをもつことから、展示空間であるギャラリーそのものが、コンクリートの床と湾曲した壁をもつホワイトキューブに、ハイサイドライトから自然光が入り込む、安藤らしい内部空間となっています。そして、入口から奥までを見通せないカーブを描く展示壁面は、この場で制作された作品を展示するAIRという前提があるからこそ成立する、他に類のない展示空間を生み出しています。

自然光が入り込む展示空間

PROFILE

佐藤慎也

日本大学理工学部建築学科教授 建築家

1968年東京都西東京市生まれ。1992年日本大学理工学部建築学科卒業。1994年同大学院理工学研究科博士前期課程建築学専攻修了。1994~95年I.N.A.新建築研究所。1996年~日本大学理工学部建築学科。現在、同教授。一級建築士。博士(工学)。
2006~07年ZKM(カールスルーエ・アート・アンド・メディアセンター)展示デザイン担当。2016~17年八戸市新美術館建設工事設計者選定プロポーザル審査委員会副委員長、2017~21年同運営検討委員会委員。2021年~八戸市美術館館長。
専門は芸術文化施設(美術館、劇場・ホール)の建築計画・設計。そのほか、アートプロジェクトの構造設計、ツアー型作品の制作協力、まちなか演劇作品のドラマトゥルクなど、建築にとどまらず、美術、演劇作品制作にも参加。
建築には、「アーツ千代田 3331」改修設計(メジロスタジオと共同、2010年)など。美術・アートプロジェクトには、『+1人/日』(2008年、取手アートプロジェクト)、「としまアートステーション構想」策定メンバー(2011~17年)、「長島確のつくりかた研究所」所長(2013~16年)、『←(やじるし)』プロジェクト構造設計(長島確+やじるしのチーム、2016年、さいたまトリエンナーレ)、『みんなの楽屋』(あわい~、2017年、TURNフェス2)など。演劇には、『個室都市 東京』ツアー制作協力(高山明構成・演出、2009年、フェスティバル/トーキョー)、『アトレウス家シリーズ』(2010年~)、『境界を越えて アジアシリーズのこれまでとこれから』会場構成・演出(居間 theaterと共同、2018年、フェスティバル/トーキョー)など。