EN
建築

今の美術館が蓄積された場所―青森

美術館の変遷/ ACAC /十和田/弘前/県美/八戸/美術館の蓄積

八戸市美術館館長(建築家、日本大学理工学部建築学科教授) 佐藤慎也

美術館の蓄積

ここまで、青森につくられた5館を見てきました。早い時代から美術館がつくられてきた都市では、ある時代の美術作品のために、ある時代の建築デザインによる美術館が、時代ごとにつくられていき、それが積み重ねられている様子を見ることができます。例えばパリでは、先史時代から19世紀までの美術作品のためにさまざまな様式により増改築された「ルーヴル美術館」、近代美術のためのハイテク建築「ポンピドゥー・センター」(1977)、現代美術のためのコンバージョン建築「パレ・ド・トーキョー」(2002年開館)などが街に点在しています。東京でも、考古遺物から美術品までを収蔵する帝冠様式の「東京国立博物館」(1837)、近代美術のためのモダニズム建築「東京国立近代美術館」(1952)、現代美術のための現代建築「東京都現代美術館」(1995)などが点在しています。当たり前のことですが、美術館にはコレクションが残り続ける以上、それに対応した美術館もまた必要とされ続けることになります。時代に応じた美術作品、建築デザイン、社会が交錯した結果が、このような美術館の蓄積を生み、その蓄積がまた、その都市の魅力をつくり出しています。

一方で青森では、5館の歴史が21世紀に入ってからはじまったこともあって、短い間にその蓄積がつくられることになりました。もしかすると、同じ時代を反映させた、同じような美術館ばかりがつくられてしまった可能性もあったでしょう。しかし、この青森では、それぞれの美術館・アートセンターが成立する背景の独自性に応えるように、それらを実現させるにふさわしい設計者たちが選ばれたことによって、さまざまな現代的な美術館のあり方が展開されています。創作する場としての「国際芸術センター青森」、作品と呼応する開かれた「十和田市現代美術館」、歴史性をもった「弘前れんが倉庫美術館」、場所性をもった「青森県立美術館」、人を中心とした「八戸市美術館」。パリや東京とはまったく異なるスピードと密度で、今の美術館による蓄積が一気に生み出された特別な場所。青森以外にこんな場所は、世界を見てもどこにもないでしょう。

PROFILE

佐藤慎也

日本大学理工学部建築学科教授 建築家

1968年東京都西東京市生まれ。1992年日本大学理工学部建築学科卒業。1994年同大学院理工学研究科博士前期課程建築学専攻修了。1994~95年I.N.A.新建築研究所。1996年~日本大学理工学部建築学科。現在、同教授。一級建築士。博士(工学)。
2006~07年ZKM(カールスルーエ・アート・アンド・メディアセンター)展示デザイン担当。2016~17年八戸市新美術館建設工事設計者選定プロポーザル審査委員会副委員長、2017~21年同運営検討委員会委員。2021年~八戸市美術館館長。
専門は芸術文化施設(美術館、劇場・ホール)の建築計画・設計。そのほか、アートプロジェクトの構造設計、ツアー型作品の制作協力、まちなか演劇作品のドラマトゥルクなど、建築にとどまらず、美術、演劇作品制作にも参加。
建築には、「アーツ千代田 3331」改修設計(メジロスタジオと共同、2010年)など。美術・アートプロジェクトには、『+1人/日』(2008年、取手アートプロジェクト)、「としまアートステーション構想」策定メンバー(2011~17年)、「長島確のつくりかた研究所」所長(2013~16年)、『←(やじるし)』プロジェクト構造設計(長島確+やじるしのチーム、2016年、さいたまトリエンナーレ)、『みんなの楽屋』(あわい~、2017年、TURNフェス2)など。演劇には、『個室都市 東京』ツアー制作協力(高山明構成・演出、2009年、フェスティバル/トーキョー)、『アトレウス家シリーズ』(2010年~)、『境界を越えて アジアシリーズのこれまでとこれから』会場構成・演出(居間 theaterと共同、2018年、フェスティバル/トーキョー)など。