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建築

今の美術館が蓄積された場所―青森

美術館の変遷/ ACAC /十和田/弘前/県美/八戸/美術館の蓄積

八戸市美術館館長(建築家、日本大学理工学部建築学科教授) 佐藤慎也

作品と呼応する開かれた美術館
十和田市現代美術館

1970年代以降に見られはじめた場所を含み込んだインスタレーション作品への応答として、磯崎新は3組のアーティストとともに「奈義町現代美術館(以下、奈義現美)」(1994)を設計します。それは、作品と建築空間が一対一で対応して計画されることで、場所と強く結びついた作品が、展示替えなしに常設される美術館でした。その結果、展示空間は特殊な形態と仕上げをもち、作品は、かつての宗教建築に描かれた壁画や天井画のように、その場所に訪れないと見ることができないものとなりました。
2008年に開館した「十和田市現代美術館(以下、十和田現美)」は、アトリエ・ワン(塚本由晴+貝島桃代)、乾久美子、藤本壮介、ヨコミゾマコトという、錚々たる当時の若手建築家が指名されたプロポーザルによって、西沢立衛が設計者に選ばれました。それは、中心市街地を整備するために市が策定した野外芸術文化ゾーンの基本計画に基づき、その中核施設となるアートセンターへの提案が求められたものでした。

上空からみた野外芸術文化ゾーン
十和田現美外観

西沢は、妹島和世と協働するSANAAとして「金沢21世紀美術館(以下、金沢21美)」(2004)や「ルーヴル・ランス」(2012)などの国内外の美術館を数多く手がけています。また、西沢単独でも、「軽井沢千住博美術館」(2010)や「済寧美術館」(2019)などの国内外の美術館を手がけています。そのなかで「金沢21美」は、さまざまな広さ、天井高さをもった複数のホワイトキューブが、円形の共有空間のなかに整然と並ぶことで、天井から自然光が入るものの周囲に閉鎖的な展示室と、ガラス張りの開放的なロビー・廊下を対比的につくり出しています。「十和田現美」は一見すると、「金沢21美」と同様な手法が採られているように思うかもしれません。しかし、さまざまなホワイトキューブが敷地に散らばっているものの、それに取りつく共有空間がガラス張りの廊下だけであるため、展示室自体が直接外部と接しています(さらに、その構成を延長するようにして、2021年には展示室の増築を実現しています)。

また「十和田現美」は、基本的には展示室に一対一で対応するようにインスタレーション作品が設置され、それぞれの作品に合わせてそれぞれのホワイトキューブの広さや天井高さが決められています。しかし、「奈義現美」や同じ西沢設計の「豊島美術館」(2010)ほどには、「十和田現美」は作品と建築の形態が強く結びつけられているわけではありません。むしろ、ホワイトキューブが作品の背景に留まるように、形態や仕上げは過剰に主張することなく、ある意味ではホワイトキューブらしい中性的な展示室となっています。

ロン・ミュエク《スタンディング・ウーマン》
作品に合わせて展示室の大きさが決められている

その結果、設計と同時に展示作品を構想したため、自然光による作品への影響を問題視することなく、いくつかの展示室の外部に面した壁を全面ガラス張りとしていることが、「十和田現美」の最大の魅力となっています。作品の保存環境が重視される美術館の展示室において、どんな作品を展示するのかわからない前提であったならば、こんなにも大胆に自然光を採り入れた計画は難しいでしょう。その開放性は、内部から見れば美術館の展示室がそのまままちへつながっていく関係を、外部から見ればまちがそのまま美術館の展示室へと入り込んでいく関係を生み出しています。エントランスホールやカフェさえも、床面に作品が広がる展示室となります。さらに、さまざまな向きに散らばったホワイトキューブの隙間にも、魅力的な外部空間があらわれています。それは、同じ西沢設計の集合住宅「森山邸」(2005)において、内部をつくり出すための建築物が結果的にその隙間の外部をつくり出すために存在しているように、内部と外部の主従が逆転した関係をつくり出す手法と同様な考え方でつくられています。「十和田現美」では、その外部の隙間は展示にも使われ、さらに芸術文化ゾーンを構成する周囲の「アート広場」へとつながっていきます。
開かれた美術館と言っても、たいていの美術館では、外部に開くことができているのはロビーなどの共有空間に留まります。しかし、「十和田現美」においては、インスタレーション作品による常設展示という条件が、結果的に展示室さえもがまちに開く、稀有な美術館を成立させています。

エントランスホールに広がるジム・ランビーの作品《ゾボップ》

撮影:太田拓実

PROFILE

佐藤慎也

日本大学理工学部建築学科教授 建築家

1968年東京都西東京市生まれ。1992年日本大学理工学部建築学科卒業。1994年同大学院理工学研究科博士前期課程建築学専攻修了。1994~95年I.N.A.新建築研究所。1996年~日本大学理工学部建築学科。現在、同教授。一級建築士。博士(工学)。
2006~07年ZKM(カールスルーエ・アート・アンド・メディアセンター)展示デザイン担当。2016~17年八戸市新美術館建設工事設計者選定プロポーザル審査委員会副委員長、2017~21年同運営検討委員会委員。2021年~八戸市美術館館長。
専門は芸術文化施設(美術館、劇場・ホール)の建築計画・設計。そのほか、アートプロジェクトの構造設計、ツアー型作品の制作協力、まちなか演劇作品のドラマトゥルクなど、建築にとどまらず、美術、演劇作品制作にも参加。
建築には、「アーツ千代田 3331」改修設計(メジロスタジオと共同、2010年)など。美術・アートプロジェクトには、『+1人/日』(2008年、取手アートプロジェクト)、「としまアートステーション構想」策定メンバー(2011~17年)、「長島確のつくりかた研究所」所長(2013~16年)、『←(やじるし)』プロジェクト構造設計(長島確+やじるしのチーム、2016年、さいたまトリエンナーレ)、『みんなの楽屋』(あわい~、2017年、TURNフェス2)など。演劇には、『個室都市 東京』ツアー制作協力(高山明構成・演出、2009年、フェスティバル/トーキョー)、『アトレウス家シリーズ』(2010年~)、『境界を越えて アジアシリーズのこれまでとこれから』会場構成・演出(居間 theaterと共同、2018年、フェスティバル/トーキョー)など。